「放射線看護学」をさらに掘り下げ、発展させる

2018年4月に一般社団法人「日本放射線看護学会」として生まれ変わり、5年が経ちました。学会を設立当初から今日まで牽引して頂いた多くの役員が今回退任されることになり、2023年6月の総会で、指名理事2名を含む10名の理事と2名の監事で構成される新たな理事会がスタートしました。会員の皆様には、今まで以上のご理解とご支援をよろしくお願い申し上げます。

さて、当学会の設立は2011年まで遡ります。3月11日の東日本大震災に伴う東京電力福島第一原子力発電所事故が契機となりました。その当時、すでに原子力災害における被ばく医療に従事できる人材育成に取り組んでいたいくつかの大学の関係者、ならびに放射線防護学を専門としておられた先生方を中心に任意団体の学会として設立されました。ただし、学会趣意書にもあるように当学会が取り組む課題は、原子力災害だけではありません。X線の発見当初から放射線の利用にはリスクがあることが知られており、放射線に対する正しい理解と適切な放射線防護が求められていました。放射線の医学利用の発展は目覚ましく、それに携わる看護師の数や放射線被ばくの機会が増えています。患者へのかかわり(副反応への対応、不安への対処など)ももちろん看護師として大切な役割です。当学会のもう一つの柱は、そのような放射線診療における看護です。

看護は早くからさまざまな関連分野の知識や技術をその中に取り込み、新たな専門を確立してきました。看護と放射線に関しては、がんの放射線治療やIVR(インターベンショナルラジオロジー)における看護についての専門領域がすでにあります。しかし、今日、放射線診療(一般撮影、CT検査から放射線治療など)にまったく関わらない看護師はほとんどいないと考えられ、放射線や放射線被ばくあるいは放射線影響などについてのより広い理解が求められています。そのための看護の視点からの知識・経験の集約が必要です。当学会は、そのような放射線診療における看護、そして冒頭に述べた原子力災害における看護で求められる放射線、放射線被ばくならびに放射線防護を探求する看護の新たな学問領域「放射線看護」を担います。

2022年には、この専門を担う「放射線看護専門看護師」も誕生しました。また、放射線・原子力災害に関して平常時ならびに災害初期から中長期にわたる住民に対する放射線リスクマネジメントに当たる専門家集団であるNuHAT(原子力災害保健チーム)の構築も進んでおります。医療については言うまでもありませんが、原子力等での放射線利用はまだまだ続きます。看護という専門を担う私たちは、病院においても地域においても放射線と無縁ではいられません。患者および地域の住民は私たちのすぐ隣にいます。人々の健康に貢献することを使命とする看護職が、放射線と放射線被ばく(放射線影響を含む)、ならびに放射線防護にかかわる知識と技術をしっかりと身につけられるよう、当学会はそれらに関する研究によって得られた知、ならびに実践から得られた経験知を集約して新たな放射線看護の知を創出し、その普及を図っていきたいと考えます。そのためには、会員の皆様の一層のご理解とご支援が必要です。今後ともどうぞよろしくお願い申し上げます。

2023年7月
理事長 太田勝正